冷やし中華、まだやってました
昨日、突然冷やし中華が食べたくなりました。
もう10月も半ばを過ぎ、肌寒さすら感じる気候となってきましたが、食べたくなってしまったものは仕方がありません。
冬にアイスを食べることだってあるじゃないですか。
ただし、この時期に冷やし中華を食べようと思ったら、少し大変です。
冷やし中華は、基本的に夏限定の食べ物だからです。
早ければ8月、遅くとも9月までしかメニューに置いていない、というお店がほとんどでしょう。
終わる時期があやふやなのは、特に冷やし中華が終わる時期を意識して生きてこなかったためです。
しかし、「冷やし中華が終わる時期」を意識して生きていないのは、私以外の大多数の方々も同じではないでしょうか。
始まる時には「冷やし中華はじめました」という貼り紙を伴って、「ああ、もうそんな季節なんだな」という歓迎ムードで始まる冷やし中華。
しかし、終わる時には誰も「冷やし中華、もう終わるってよ」と名残を惜しんではもらえないのです。
アマチュア時代に多大な実績を残し、鳴り物入りでプロデビューしたスポーツ選手が、プロとしては特に実績を残せずにひっそりと引退していくのを見た時のような哀しさがありますね。
そんな夏だけの存在である冷やし中華を急に食べたくなってしまった私。
はたして私は、無事に冷やし中華にありつくことができるのでしょうか。
それとも幻の生き物、ツチノコを探すが如く、この東京砂漠を彷徨い歩くことになってしまうのでしょうか。
……と、雑な盛り上げ方をしてみました。
実は、近所に一年中冷やし中華を出しているお店があるのです。
そこに行けば、冷やし中華難民となって彷徨い歩かなくて済むのです。
逆に言えば、そのお店の存在を知っているからこそ、こんな時期に冷やし中華を食べたくなってしまったのかもしれません。
そんなわけで、その中華料理屋へ。
ご夫婦で営んでいるお店で、入ると「いらっしゃいませコチラへどうぞー」と奥さんがちょっとカタコトの日本語で迎えてくれます。
多分ご夫婦共に中国の方だと思うのですが(厨房では中国語らしき言葉でやり取りしているので)、ちゃんと確認したことはありません。
中華料理屋さんなので中国の方かな、と思いますが、海外で日本料理屋を営む外国の方もいますからね。
どこの国の方か確認はしていませんが、ちょくちょく通っているので顔なじみではあります。
昼過ぎで空いていたのでテーブル席に座らせてもらい、まずはビールの中瓶を。
お通しで出てきた鶏手羽先の煮物をつまみながらビールを飲み進め、ちょっとお腹が冷えてきたので紹興酒を注文。
このままでは冷やし中華を食べに来たのかお酒を飲みに来たのかわかりませんので、このタイミングで冷やし中華も頼みます。
注文時、ふと思いついて聞いてみました。
「なんでこちらは、一年中冷やし中華を出しているんですか?」
「メニュー変えたり貼り紙したり、面倒だからねー」
なるほど、そういう考えもありますか。
合理的と言うべきでしょうか。
「だから、アレも貼りっぱなし」
奥さんが指さす方を見ると、壁に貼られたメニューの短冊たちの中に、すっかり黄ばんだ「冷やし中華はじめました」の貼り紙がありました。
今までは手元のメニューばかり見ていて、壁のメニューなど見たことがなかったので気付かなかったのです。
なるほどなぁ。
他のお店では冷やし中華のシーズンは始まったり終わったりするものだけど、このお店はお店が営業している限り、永遠に冷やし中華のシーズンが続くんだなぁ。
そう考えると、壁に貼られた黄ばんだ「冷やし中華はじめました」が、妙にかわいらしく感じられました。
「はい、冷やし中華お待たせしましたー」
「はーい、いただきます……ちなみに、冬に冷やし中華頼む人っています?」
「あんまりいないですよー」
ですよねー。